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コラム

COLUMN
翻訳

原文はどうなっている

以前、内外の特許出願を担当していたとき、あるフランスの半導体メーカーから依頼された出願原稿の英文(基礎出願のフランス語明細書の英訳文)を翻訳していたところ「load pump」という語が出てきました。見慣れない語だなと思いつつ、手元の用語集や辞書で調べ始めました。ところが、どんな用語集や辞書を調べても「load pump」なんて語は出ていません。同僚に聞いてもわかる者はおりません。意を決して出願人に問い合わせましたが要領を得ません。
 
さて困りました。用語集や辞書に出ていない語は、明細書中で定義しなければなりません。しかしながら、その英文テキストでは、「load pump」は従来から存在する、専門家なら当然知っている物のように記載され、定義はおろか説明もありません。
 
困っていても出願期限は待ってくれません。「load pump」はそのままに翻訳を進めました。翻訳があらかたできたところで再び「load pump」と向き合います。最後の手段で、基礎出願のフランス語明細書を見ることにしました。私は、大学で第2外国語としてドイツ語を選択していたのでフランス語は全くわかりません。それでも、フランス語の辞書を片手に英文テキストとフランス語テキストを比較していくと、件の「load pump」はフランス語テキストでは「pompe de charge」と記載されていることがわかりました。そう、「load pump」はなんと「charge pump(チャージポンプ)」のことだったのです。チャージポンプならよく知られた回路です。やれやれと思って見直すと、確かに技術的にもチャージポンプで辻褄が合います。
 
つまり、フランス語から英語への翻訳の際、「pompe de charge」を「charge pump」とせず、「load pump」と誤訳してあったのです。フランス語の「charge」には英語の「charge」以外に「load」とか「burden」の意味もあります。日本語の「荷」と似たニュアンスの語なのでしょう。おそらく仏英の翻訳者が技術に疎かったので、正確な翻訳ができなかったと思われます。また、根本的にはフランス語が英語に比べ、語彙数が1/2〜1/3くらいしかないというのも事態を複雑にしています。
 
いずれにせよ、正確な翻訳を行うには、英訳文があったとしても原文を参照しなければならないという貴重な教訓を残してくれました。